福岡高等裁判所 昭和56年(ネ)576号 判決 1982年1月20日
控訴人
小泉稔
控訴人(附帯被控訴人)
角田正男
控訴人
田中勝己
被控訴人(附帯控訴人)
株式会社福岡相互銀行
右代表者
四島司
右訴訟代理人支配人
三浦多喜雄
主文
控訴にもとづき原判決主文第二項の明渡を命ずる部分を取消す。
被控訴人(附帯控訴人)の右請求を棄却する。
控訴人(附帯被控訴人)らのその余の控訴及び被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴を棄却する。
訴訟費用(但し附帯控訴費用を除く)は第一、二審を通じこれを五分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)の負担とし、その余を控訴人らの負担とし、附帯控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
事実《省略》
理由
一当裁判所は、被控訴人の本訴請求のうち控訴人らに対して本件賃貸借ならびに転貸借契約の解除を求める部分についてはこれを認容すべきものと判断する。<中略>
判旨二そこで、被控訴人から控訴人角田<編注、Y3>に対する本件建物の明渡請求について判断する。
抵当権は、目的物の担保価値を支配する権利であり、目的物の使用、収益に干渉する権能を有しないのであつて、ただ目的物の担保価値が減少する場合に民法三九五条但書により短期賃貸借の解除が認められ、担保権と利用権の調節を図つているところ、そこで、同法が担保権の保全として予定しているものは担保権の価値を阻害する賃貸借契約の解除という効果を宣言するにとどまり、それ以上のことは予定していないものと解すべきである。
そして、解除された短期賃貸借の借主が依然として目的物件を占有していても、それは抵当権者ひいては執行手続における買受人に対抗することができないのであるから、これに対しては、執行手続完結の段階で、明渡を訴求するなどの方法によつて排除すればたりるものと考えられる。
しかも、短期賃貸借を解除して占有権原のない占有者となつた場合に、直ちに抵当権者がその明渡を求めうるとすれば、民法六〇二条の期間をこえる対抗しえない賃貸借について抵当権者が売却手続の実現に先立ちその明渡を求めることが許されないと解されていることとの権衡を失することにもなる。
したがつて、占有者が担保物の毀損を図るなどの特段の事情のない限り、競売手続における競落人の不動産所有権取得の効果の発生をまつて始めて占有者に対する明渡が容認されると考えるのが担保権と利用権の調和を計る所以であると解すべきであるから、抵当権者が右競落人の所有権取得に先立つて事前に明渡まで求めておくことは担保権の保護としては厚きに過ぎるものというほかなく、被控訴人の本件建物明渡を求める請求は理由がない。
三よつて、原判決中各賃貸借の解除を認容した部分は相当であるから、これに係る控訴を棄却し、明渡を認容した部分は不当であるからこれを取消したうえ該請求および附帯控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(高石博良 谷水央 足立昭二)